大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和58年(ワ)620号 判決 1984年7月16日

原告

株式会社アイチ

右代表者

森下安道

右訴訟代理人

野島潤一

被告

株式会社鏡石

右代表者

鏡石功

右訴訟代理人

柿沼映二

野口啓胡

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一(売掛債権の発生)

請求原因1のとおりモルトの被告に対する売掛代金一一六万〇五五〇円の債権が発生したことは、当事者間に争いがない。

二(原告の債権譲受)

モルトが右債権のうち九八万三二五〇円を原告に債権譲渡した旨昭和五七年二八日被告に通知したことは当事者間に争いがなく、この事実と、<証拠>によれば、原告主張のとおりモルトから原告に対し右債権譲渡がなされたことが認められ、これを動かすに足りる証拠はない。

三(協和銀行への債権譲渡)

<証拠>によれば、前記抗弁のとおり、モルトは右売掛債権一一六万〇五五〇円を協和銀行に譲渡し、前記原告に対する債権譲渡についての通知がなされた昭和五七年八月二八日より前の同年一月二一日に、被告に対し債権譲渡の通知をしたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

四原告は、モルトは協和銀行に対する右債権譲渡を合意解除し、その旨を被告に通知したから、これによつて本件売掛債権はモルトに復帰し、これを被告に対抗し得ると主張する。

1  (合意解除)

モルトから被告に対し右合意解除の通知があつたことは当事者間に争いがなく、この事実と、<証拠>によれば、モルトと協和銀行はその債権譲渡契約を合意解除したことを認めることができる。

2  (対抗要件)

しかし、債権譲渡契約が合意解除されれば、当事者間においてはその債権は譲受人から譲渡人に復帰することは当然であるが、すでに譲渡人から債務者に債権譲渡の通知がなされ、または債務者がこれを承諾していたときは、譲受人から債務者に対しその合意解除の事実を通知するか、債務者がこれを承諾するのでなければ、譲渡人は合意解除による債権の復帰を債務者に対抗することはできず、なおこの場合の通知は譲受人からなすべきであつて、譲渡人からするのでは足りないと解すべきである。

したがつて、本件の場合、原告において、協和銀行への債権譲渡の合意解除によるモルトへの本件債権の復帰を債務者たる被告に対抗するためには、譲受人たる協和銀行から被告に対し右合意解除について通知がなされたことまたは被告が承諾したことを要し、譲渡人たるモルトからの通知があつたというだけでは足りないというべきである。

しかるに原告は、この点について、モルトから被告に対し右合意解除の通知があつた旨を主張するのみで、協和銀行から通知がなされたことまたは被告において承諾したことについてなんら主張立証しないので、原告は、モルトと協和銀行との債権譲渡に対抗することはできないといわなければならない。

五結論

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は失当であることが明らかであるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(小川英明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例